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謎の鬼ノ城を掘る! ~城内確認調査の思い出~

更新日:2025年9月22日更新

文/岡山県古代吉備文化財センター  石田爲成

謎の鬼ノ城

 鬼ノ城<きのじょう>は総社市奥坂、吉備高原の南端に位置する標高約400mの鬼城山<きのじょうざん>の山頂付近に築かれた山城です。桃太郎の鬼退治の話の元になったと考えられる温羅<うら>伝承の舞台で、鬼(温羅)の居城として古くから地元では知られていましたが、「日本書紀」などの歴史書に記録がなく、いつ誰が何の目的で築いたか分からない謎の城と言われてきました。

鬼ノ城の復元された西門と城壁の写真
<写真1>鬼ノ城の復元された西門と城壁

調査の経緯と目的

 鬼ノ城で城の遺構の一部が発見されたのは昭和46(1971)年と結構最近のことになります。昭和53(1978)年には、鬼ノ城学術調査委員会による最初の発掘調査が行われ、古代山城<こだいさんじょう>であることが明らかになりました。この成果をうけて、鬼ノ城は昭和61(1986)年に国の史跡に指定されています。なお、史跡としての正式名称は山の名前と同じ「鬼城山」ですが、ここでは一般的に親しみのある「鬼ノ城」と呼びたいと思います。

 平成6(1994)年からは総社市教育委員会が城の外郭部分を中心に精力的に調査を積み重ね、城壁や城門の構造などの詳細が明らかになりました。ただ、城内の様子についてはよく分かっておらず、時期を知る手掛かりになる土器の出土も限られていました。

 そこで、平成11(1999)年に岡山県古代吉備文化財センターが城内全域にわたって確認調査を行い、遺構や遺物が多く見られる区域の存在が明らかになりました。この調査成果をもとに鬼ノ城の全容(謎)の解明を目的として行ったのが今回紹介する調査で、岡山県の施策である「新世紀おかやま夢づくりプラン」の一環として「甦る!古代吉備の国~謎の鬼ノ城」城内確認調査事業として、平成18(2006)年から平成23(2011)年の6年間、岡山県古代吉備文化財センターが発掘調査を行いました。

 なお、岡山県などの地方公共団体が行う発掘調査は、道路やダムなどの建設等で消滅してしまう遺跡の発掘調査が9割以上を占めており、これらを「記録保存調査」と呼んでいます。鬼ノ城の調査のように、開発の有無に関係なく、遺跡の保存や整備、活用に向けて遺跡の内容を明らかにする発掘調査は「保存目的調査」と呼んでいますが、調査の数もかなり限られています。鬼ノ城の調査に携われたことは、調査員にとっても貴重な経験になりました。

城内確認調査の思い出-礎石建物群の調査-

 発掘調査は、毎年7月から12月までの6か月間、調査員3名と発掘作業員10名ほどの体制で行いました。調査の序盤には調査機材や資材の搬入を行い、テントを建てて基地をつくります。鬼ノ城の調査では現場事務所のようなものは無く、城内に建てたこのテントが事務所代わりで、もちろん電気や水道もありませんでした。

 最も印象に残っているのは、平成19・20(2007・2008)年に実施した城内中央部に位置する礎石建物群の調査です。調査以前から建物を構成する礎石のいくつかが露出していましたが、全ての礎石を確認できておらず、建物の形や規模は正確には分かっていませんでした。そこで、土の中に埋まっている他の礎石の位置を推定して、時には2メートル近くも堆積している土の掘り下げを人力で行いました。掘り下げた土は土のう袋に入れて、調査区の脇に運んで積み上げていきます。土のう袋の数は、調査区によっては数千個を超え、鬼ノ城の調査と言えば「大量の土のう袋との格闘」というイメージです。

 大量の土を掘り下げ、推定どおりの位置に礎石が現れると、それまでの苦労もあって喜びもひとしおです。また、掘り出された礎石のいくつかには、上面を綺麗にすると中央部に丸い形がくっきりと見えるものがありました。ほぼ正円に近く直径は50センチメートルほどあり、かつて礎石の上に立っていた丸柱の痕跡と考えられました。とくに礎石の表面を削るなど細工が行われていたわけではなく、表面の僅かな風化による色の違いだけで現れたようです。約1,300年前に礎石の上に立っていた柱の痕跡を目の前にして、驚きとともに感動を覚えました。ちなみに、当時は礎石を使った建物は希少で、寺院や重要な役所の施設でしか見られないものでした。鬼ノ城では礎石建物1~7の7棟が確認されていますが、その内2棟は管理棟のような建物で、あとの5棟は高床倉庫と考えられます。

 12月の城内調査大公開が終了すると、最後に大仕事が待っていました。作業員さん曰く「地獄の埋め戻し」です。礎石建物を掘り出した大量の土のうを使って、元のとおりに埋め戻しを行わなくてはいけません。「よくもまあこんなに掘ったもんじゃな~」とみんなで感心しましたが、最後の重労働はあまり経験したくない厳しい思い出となっています。

礎石建物群の位置図
​​<図1>礎石建物の位置

礎石建物2の発掘調査風景
<写真2>礎石建物2の掘り下げ

礎石建物6の発掘調査現場風景
<写真3>礎石建物6(管理棟)と周りに積み上げられた土のう袋

礎石がきれいに掘り出された礎石建物2の様子
<写真4>掘り出された礎石建物2(高床倉庫)

礎石に残っていた柱の痕跡
<写真5>礎石に残っていた柱の痕跡(礎石建物7)

礎石建物7の発掘調査後の埋め戻しの様子
<写真6>礎石建物7の埋め戻しの様子

調査成果の公開

 鬼ノ城では、調査期間中の9月と12月に調査現場の見学会「城内調査大公開」を行いました。復元された西門横の山頂付近に集合して、調査員が城内を案内しながら移動して調査現場の説明を行いました。夏休み期間中には、小・中学生を対象に「夏休み少年少女鬼ノ城教室」を開催し、土の掘り下げ、礎石の実測図作成、写真撮影など調査員の仕事を体験しながら、鬼ノ城について学んでいただきました。また、季候の良い10月には鬼ノ城を半周して調査現場を見学する「鬼ノ城うぉーく」も実施しました。

 調査の状況や成果については、当センターのホームページ上で「調査員便り」や「動画」でも公開を行いました。現在ではYoutubeなどで動画の配信は広く行われていますが、20年近く前は、日本でもYoutubeが始まったばかりで、当時としては新しい試みでした。調査員が自らビデオカメラで撮影し編集したものを公開していました。当時の動画を見直してみると、色々改善の余地もありますが・・・。なお、現在でも鬼ノ城の動画は当センターの展示室やYoutube上で公開していますので、興味のある方は視聴してみてください。​
古代吉備文化財センター Youtubeチャンネルはこちらから!

城内調査大公開の様子
<写真7>城内調査大公開の様子(礎石建物2)

夏休み少年少女鬼ノ城教室の様子
<写真8>夏休み少年少女鬼ノ城教室の様子

城内確認調査の思い出-番外編-

 鬼ノ城では、調査中も山の豊かな自然を感じることができました。サギソウのような湿地の貴重な植物やハッチョウトンボなど、調査現場までの行き来の途中で目にすることができました。また、鬼ノ城の大部分はアカマツ林で、秋になるとどこからともなく松茸の匂いが漂ってきます。周辺の足元を探してみると、遊歩道のすぐ脇で松茸が顔を出していることもあったようです。

 鬼ノ城からの眺めは最高で、何回見ても飽きません。空気の澄んだ日には、眼下に岡山から総社の平野が広がり、遠くに児島半島、そして四国のやまなみまでも臨むことができます。条件が良ければ、同じ古代山城の屋嶋城<やしまのき>が築かれている香川県高松市の屋島も確認することができました。​

城内に咲いていたサギソウの写真
<写真9>城内のサギソウ

鬼ノ城東門付近から眺めの写真
<写真10>鬼ノ城東門付近からの眺め(手前に岡山平野、奥に児島半島と四国のやまなみ)

鬼ノ城の謎は解けたのか?

 平成18年から岡山県古代吉備文化財センターが行った城内の発掘調査では、多くの土器も出土し、鬼ノ城は7世紀後半に軍事施設(城)として築かれ、8世紀には礎石建物群(倉庫群)を中心とした備蓄施設に変化したことが明らかになりました。鬼ノ城は様々な施設を備え、その完成度も高いことから中央政権が主導して築いた山城であったと考えられます。また、後の平安時代には周辺の新山寺や岩屋寺のような山岳仏教寺院の施設が存在していたことも分かりました。なお、これらの調査成果はパンフレットや報告書にまとめてあり、ホームページでも公開しています。

 平成18年からの6年間で発掘調査した面積は7,800平方メートルにもなります。ただ、鬼ノ城の城内部分の総面積は約30ヘクタール(300,000平方メートル)もあり、全体の約2.6パーセントを調査したにすぎません。調査で明らかになったことも多くありましたが、まだまだ城内には未発見の施設や遺物が埋まっている可能性があり、解明できていない謎もまだまだ存在します。

 鬼ノ城の遺構や未発掘部分をしっかりと保存し、後世に引き継いでいくことができれば、将来的にデジタル技術などを活用した調査方法や自然科学分析方法などの進歩や開発によって、鬼ノ城の全ての謎が解明できる日が来るかも知れません。

【鬼ノ城に関連する報告書・パンフレット】

 

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