本文
当センターでは、県の環境保全及び保健衛生施策に係る試験検査や監視測定業務と密接に連携したテーマについて調査研究を行い、行政施策の推進に必要な情報と技術を提供しています。
本県のPM2.5に係る環境基準達成率は、3年連続(平成29~令和元年度)で全国ワースト1位でした。
また、児島湾干拓地周辺について、これまでの知見から県では野焼きがPM2.5の上昇に影響を与えていると判断し、農業団体等の協力を得ながら対策事業を進めているところですが、対策に不可欠な科学的根拠を充実させてほしいとの行政ニーズもあります。
そこで本研究では、児島湾干拓地周辺については高濃度事象に係る知見を充実させるとともに、県内他地域のPM2.5が高濃度となる要因を明らかにし、環境基準達成率の改善に向けた県の施策推進の一助とします。
PPCPs(Pharmaceutical and Personal Care Products:人が生活する中で使用する人・動物用医薬品、医薬部外品及び化粧品等の総称)の多くは、何らかの生理活性を持っています。国内外で、低濃度ではありますがPPCPsの成分が水環境から検出されており、水生生物への影響が懸念されることから、全国レベルでの環境実態の把握、生態リスク評価等が求められています。
一方で、これまで県が取り組んできた環境モニタリング調査は農薬類を中心としていたため、PPCPsについての知見は乏しい状況です。
そこで、本研究において県内の河川中のPPCPs成分の分布及び濃度を明らかにします。
児島湖の化学的酸素要求量(有機物による汚染に関する指標。以下「COD」という。)は、これまでの各種施策により改善傾向にありますが、未だ環境基準を達成していない上、近年は改善が低調になっています。
また、琵琶湖や霞ヶ浦といった他の湖沼では、環境基準未達成の大きな要因は難分解性CODであると指摘されていますが、児島湖での知見は乏しい状況です。
そのため、湖内及び流入河川等での難分解性有機物の実態を把握し、今後の行政施策の検討の一助とします。
なお、湖沼水質保全特別措置法に基づく「児島湖に係る湖沼水質保全計画(第8期)」においても、難分解性有機物の実態調査が掲げられています。
岡山県では、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構人形峠環境技術センター(以下「人形峠センター」という。)周辺において環境放射線等の監視測定を昭和54年度から継続して行っています。
監視測定対象項目の松葉に含まれる放射性核種(ウラン238,ラジウム226)及びふっ素濃度は、人形峠センター周辺では十分なデータ蓄積がありますが、これらを他地域のデータ等と比較して評価を行う場合、過去に報告されている文献が少ない状況です。
そこで、人形峠センター周辺における環境放射線等の測定結果を評価する上で参考となるデータの蓄積のため、県内で生育している松葉を対象として放射性物質濃度等のレベルを把握します。
感染症及び食中毒の起因菌の病原性は、菌株の違いによりそれぞれ高低があります。
また、県内では腸管出血性大腸菌やレジオネラによる散発事例が続いています。
そこで、県内で発生頻度が高い腸管出血性大腸菌感染症及びレジオネラ症について、起因菌の菌株ごとの病原リスクを明らかにし、まん延防止施策の基礎資料とします。
近年続発している新興感染症はもとより、様々な行政検査に適切に対応するためには、限られたリソースの効率的な運用が必要です。
そこで、感染症の原因ウイルスの特定効率の向上を目指し、多種病原体の同時スクリーニング法等の開発に取り組みます。
また、感染症の発生予防やまん延防止のためには、患者だけでなく、環境、媒介動物等における病原体分布の解明が望まれています。
そこで、下水サーベイランスと病原体保有マダニの分布状況調査により地域全体の病原体の分布を把握・解析し、感染症の流行拡大防止や発生防止の一助とします。
食の安全・安心の確保のため、食に関する健康危害状況等に係る県民や食品関連事業者への情報提供の一助とするとともに、迅速な試験検査体制を整備します。
<ふき取り検査によるアレルゲンの目視化及び洗浄に関する研究>
アレルゲンは、国内の自主回収原因の32%を占め最多です。(令和2年)
そのため、本研究では、工場等の現場においてアレルゲンの残留場所を定量的に示すアレルゲンマップを作成し、アレルゲンの混入を未然に防ぐ体制整備の一助とします。
また、家庭でもできるアレルゲンの混入を防止するための効果的な予防・洗浄方法を検討します。
<自然毒の分析技術の開発>
植物性自然毒による食中毒は、県内では細菌、ウイルスに次いで多く発生しています。また、原因植物のうち、半数はキノコによるものです。
キノコの判定は、現在のところ本県では形態学的な特徴を基に行っていますが、高度な専門知識が必要であり、調理等で形状が変わると判定ができなくなってしまいます。
そこで、本研究においてキノコ中の植物性自然毒の機器分析法を開発し、キノコによる食中毒発生時に迅速に対応できる体制を整備します。
※これまでの調査研究の成果については、「環境保健センター年報」を御覧ください。