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標点 平成23年4月号(通巻739号)
子どもたちに目標を持たせよう 県教育委員会委員長 橋本 信子 | |
二、三年前、科学技術部門のアカデミー賞を受賞した日本人がいる。ニューヨークの洪水や浅瀬の馬のシーンなど、映画の中で水を表現するには、液体力学や流体シミュレーションの理論を理解する必要があった。それには苦手の数学の知識が不可欠だった。そこで、一念発起して日本から教科書を取り寄せ、中学校の数学からやり直し、血の滲(にじ)むような努力の末、難解な理論を理解したという。目的達成のために数学嫌いを克服したのだ。 ある引きこもりの若者が時間を持て余して、英語の勉強を始めた。独学でひたすら勉強を続けるうちに、どの程度の力がついたかを知りたくなって、試験を受けてみる気になった。結果は自分でも驚くほどの高得点だった。それを契機に引きこもりを脱して、今では学習法も含めて英語を教える立場の人間になっているという。どうやら人間は目標を持つと、大変な力を発揮するらしい。 若者の内向き志向が心配される昨今だ。豊かな時代に育った若者たちは現状に満足なのか、受身で積極性に欠け、冒険を好まない。その傾向は海外留学者数の減少に如実に表れている。 幼い子どもたちに目を転じると、彼らは好奇心の塊だ。「なぜ」「どうして」を連発して、大人を質問攻めにする。赤ん坊はどんな小さなものにも関心を示し、指でつまんで口に入れては確認する。本来人間は本能的に未知のものに対して好奇心を持っていることを、幼い子どもたちは教えてくれる。 ロボットスーツHALで知られる筑波大学の山海教授がロボットに関心を持ったのは小学生の時だったという。以来ロボット研究一筋だ。幼い子どもたちが例外なく好奇心旺盛な一方で、無気力な若者がいる現状に、成長過程のどこで好奇心を失ってしまうのかと考え込んでしまう。ひょっとすると、大人がその素晴らしい芽を摘んでいるのかもしれない。目標を定めれば大きな力を発揮できることは前記の例で明らかだ。子どもたちが興味あることを追求したり、目標を見つけ出すのを手助けすることこそ、教師や親に課せられた何より大切な役割かもしれない。 |