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標点 平成23年2月号(通巻737号)

印刷ページ表示 ページ番号:0087862 2011年2月16日更新教育政策課

田村文化財課長

 歴史的遺産を活(い)かした「まちづくり

 県教育庁文化財課長    田村 啓介

 昨秋、紅葉に包まれた吹屋を訪ねた。弁柄格子と海鼠(なまこ)壁、赤銅色の瓦の家並み、夕暮れ時の吹屋の景観が最も魅力的である。その空間に佇(たたず)むと、何か心落ち着き、また郷愁を誘われる。
 ふと、昭和三十年代半ば、幼少時にこの地を訪ねた記憶が蘇(よみがえ)る。秋祭りで賑(にぎ)わう往来の雑踏、鎮守の森での神楽、渡り拍子の鉦(かね)と太鼓の音色、木造二階建ての吹屋小学校校舎の威容、そして山裾(すそ)に見えた鉱山の間(ま)歩(ぶ)(坑道口)……、私にとって、歴史的町並みの原風景である。 
 さて近年、県内各地で歴史的町並みを活かした地域づくりが積極的に展開されている。暖簾(のれん)の町勝山のお雛(ひな)まつり、倉敷屏風(びょうぶ)祭、総社れとろーど、矢掛宿場まつり等、地域の歳時記として定着してきた。こうした先駆的事業においては、地域住民が主体的に参画していることが共通項といえよう。
 歴史的遺産の保存と活用は、「車の両輪」に例えられる。バランスのとれた両輪を繋(つな)ぐ車軸は地域住民で、行政は潤滑油の役割を担う。特に活用の車輪の駆動には、学校教育・生涯学習や観光振興との連携した「地域力」が不可欠である。県指定の文化財を活用した「かもがた町家公園」では、地域のボランティア組織が食堂経営や管理、イベントの企画に携わり、多くの子どもたちが集う理想的な世代間交流の場となっている。この地道な取組の積み重ねこそが、貴重な歴史遺産を次世代へ継承する鍵(かぎ)であると言っても過言ではない。
 高梁市では、昨年十一月、「歴史的風致維持向上計画」が国により認定された。この事業は、国交省・文化庁・農水省が協力して歴史的建造物や祭礼行事等を活用したまちづくりを総合的に支援するものであり、これにより従来の文化財を核とした「点」の整備から、生活基盤の整備等、「面」的広がりが可能となった。
 残念ながら、吹屋の現状は、急激な過疎化・少子高齢化という厳しい状況下にあり、「過去の遺産」の中に埋没している感は否めない。これを契機に、住民が主体となったまちづくりが再検討され、過去の遺産に新たな生命を吹き込み、「活きた歴史遺産」として活用され、地域に明るい話題と展望が開けることを心から期待したい。