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第134回 森林研究所の散歩道(ヤマコウバシ、チャノキ編)
第134回 森林研究所の散歩道(ヤマコウバシ、チャノキ編)
第134回の今回は、ヤマコウバシとチャノキについて紹介します。
ヤマコウバシはクスノキ科クロモジ属の落葉低木です。東北南部から九州の温帯に分布し、低地から山地の林に自生します。岡山県では沿岸部以外に広く分布します。
高さは3~5mになります。枯れた葉は冬でも枝によく残り、春に落ちます。
葉をちぎるとツンとしたややきつい香りがします。この匂いが名前の由来になっています。
本種は日本には雌株しかなく、単為生殖によって種子を作ります。そうして増えたすべてのヤマコウバシは同一の遺伝子からなるクローンであるそうです。
4月に花と同時に出る若葉は、乾燥させて保存し、熱湯で戻して食べられたようです。昔の非常食として知られており、トロシバの別名を持ちます。
また、山陽地方の山村では大麦や小米の炒り粉に、乾燥粉末にした葉を混ぜてタンバ餅という団子を作っていたそうです。
(出典)石井(2000)樹に咲く花 離弁花(1).山と渓谷社.p424.
千葉(1995)岡山の樹木.山陽新聞社.p182.
林(2020)樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類.山と渓谷社.p129.
岡山県農林部林政課(1986)岡山県樹木目録.p18.
北村ら(2002)原色日本植物図鑑 木本編2.保育社.p193-194.
大阪市立大学(2021)ヤマコウバシがたった1本の雌株から生じた巨大なクローンであることを発見!.https://www.okayama-jinjacho.or.jp/search/17531/ (2023年9月19日閲覧)
写真1 ヤマコウバシ 写真2 ヤマコウバシの実
(写真1、2は2023年8月23日に撮影)
チャノキはツバキ科ツバキ属の常緑低木です。中国からインドにかけての原産です。日本には暖温帯に分布し、人里近くの林内に野生化しています。
日本で栽培されている低木性のものは1~2mになり、緑茶用となっています。葉には光沢があり、また木が古くなると、下から新しい茎が立つことで叢生します。
約2500年に中国北部で飲料として利用され始め、唐の時代には広く普及しました。日本には平安時代である805年に、仏僧の最澄が持ち帰ったと言われています。このときは薬用として利用されていました。鎌倉時代の1191年に、同じく仏僧である栄西が本種の種子を持ち帰ったことで、栽培と喫茶の習慣が広まりました。
緑茶も紅茶も同じチャノキの葉から抽出されますが、緑茶には低木性で葉の小さいシネンシスという品種が、紅茶には高木性で葉の大きなアッサムという品種が利用されています。アッサムはインドの一地方の名がそのまま使われており、樹高は8~10mにもなるそうです。ミルクティーとして楽しまれているようです。
(出典)太田(2000)樹に咲く花 離弁花(2).山と渓谷社.p176-177.
千葉(1995)岡山の樹木.山陽新聞社.p43.
林(2020)樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類.山と渓谷社.p583.
北村ら(2002)原色日本植物図鑑 木本編2.保育社.p161-162.
写真3 チャノキ 写真4 チャノキの実
(写真3、4は2023年8月23日に撮影)
所内の散策をされる際にはこれらの植物も一緒に探してみてはいかがですか。
また、植物の位置がわからない場合はお気軽にお尋ねください。