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標点 平成25年6月号(通巻765号)
心はどこに 県教育庁人権教育課長 福 原 洋 子 | |
私は、十年ほど前、社会教育主事の資格を取るため、約一か月の講習を受講した。当時の私は、社会に羽ばたくかつての生徒たちの姿に喜びを感じつつ、一方で中学三年間という時間と自分の力に限界も感じていただけに、生涯学習・社会教育の考え方とそれに携わる多くの方々との出会いは、私のその後に大きな影響を与えることとなった。 ある日の講義。講師の方が「心はどこにあると思いますか。」と問われた。「心臓の辺りでしょうか。それとも頭の中でしょうか。それとも……。」皆さんならどう答えられますか。講師の方は、「私は、人と人との間にあると思います。」と。私にはこの言葉が大変印象深く残った。 現在、子どもたちの豊かな心の育成が強く求められている。もし、心が人と人との間にあるとするならば、まずは心が生まれたり育ったりするような相手とたくさん出会うことが大切である。これは大人でも同じだろう。特に、つらい心やさびしい心などがたくさん生まれてしまった子どもたちには、それを上回る、自分を大切に思う心や信ずる心、愛する心が育つ人との出会いが必要である。教職員はこうした存在の一人となるべきであるが、豊かな心の育成というならば、心が生まれ、育つ人と出会う環境をつくることも、私たち大人の責任であると考える。 振り返って今の自分。私と出会った人にとって私はどんな存在になれているのだろうか。 ある朝の光景。毎日バスで見かける小学生は、いつも運転手の方に「ありがとうございました。」の言葉を残してバスを降りる。対する運転手の方はいろいろだが、その日の方は、本を持っていた小学生に「面白そうな本を読んどるなあ。今日も頑張ってな。」と。小学生は満面の笑みで、いつものように「ありがとうございました。」と。バスを降りた小学生を何気なく見ていると、なんと過ぎていくバスに頭を下げている。自分が大事に抱えていた本を褒めてもらえたことがどれだけうれしかったことか。ほんの一瞬の時間で、二人の間には心が生まれたと思う。 自戒を込めて思うこと。私たちは一人一人が今いるところで今できる関わりを精一杯しよう。人と人との間に心が生まれることを信じて。 |