多賀城の春を歩く

                   

文/宮城県教育委員会 岡本 泰典

   



 東日本大震災の発生から、4度目の春が巡ってきました。岩手・宮城・福島の3県では、まだまだ復興の道のりは険しいとはいえ、住宅建設や圃場整備事業などの増加に伴って、復興調査もピークを迎えつつあります。今年度は、3県への派遣職員は上半期で62人。宮城県教委への派遣職員は17人で、うち7人は昨年度からの継続です。昨年4月にやってきた私も、引き続き宮城県で復興調査にあたることになりました。

 前回の便りでお伝えしたように、私は昨年度末に山元町および女川町での調査に従事した後、3月下旬から再び多賀城市の山王遺跡に戻ってきました。大規模な調査は昨年終わりましたが、残るインターチェンジの料金所や橋脚部分の調査を6月末まで行う予定です。

矢板に囲まれた橋脚部分の調査の写真
矢板に囲まれた橋脚部分の調査
工事と同時進行の発掘調査の様子
工事と同時進行の発掘調査

 さて、山王遺跡の北東には、多賀城跡のあるなだらかな丘陵が横たわっています。有名な「壺<つぼ>の碑<いしぶみ>」こと多賀城碑や整備された政庁跡は、昼休みの間に現場事務所から歩いて行けるほど近く、さらに車の助けを借りれば、城跡のほぼ全域まで足をのばすこともできます。そしてこの多賀城跡は、手軽な自然観察のスポットという、もう一つの魅力も持ち合わせています。

 4月下旬、最高気温が連日20℃を上回り、桜の花もあらかた散って、丘陵の木々もにわかに活気づいてきました。さまざまな樹木の若葉や、咲き残りの桜などで山がモザイク模様に染め分けられ、日々その色を濃くしていく今の季節が、私は大好きです。今回はしばらく仕事のことを忘れて、多賀城とその周囲の林を少しばかり歩いてみましょうか。なお今回のレポートは、数日分の散策成果を1本にまとめたものですので、念のため。

 多賀城碑の北側からは、復元されたまっすぐな南北大路が政庁跡まで続いています。大路や政庁跡の芝生では、ちょうどセイヨウタンポポの黄色い花が最盛期を迎え、まるで地面に金貨をばらまいたかのようです。外来種のセイヨウタンポポに席巻されたこの丘陵でも、在来種のエゾタンポポがかろうじて命脈を保っているので、根気よく探せば見つかるかもしれません。ほかに目に付く花といえば、ピンク色のヒメオドリコソウ、水色のオオイヌノフグリなどなど。実はこれらも外来種なのですが、3原色がそろったお花畑はそれなりに見ごたえのある景観です。ふと気が付くと、この春に羽化したばかりのベニシジミたちが、蜜やパートナーを求めて花々の間を忙しく飛び交っていました。

セイヨウタンポポの咲く芝生の写真
セイヨウタンポポの咲く芝生
(奥は政庁跡)
セイヨウタンポポ・オオイヌノフグリ・ヒメオドリコソウの写真
手前からセイヨウタンポポ・オオイヌノフグリ
・ヒメオドリコソウ
エゾタンポポの写真
少なくなったエゾタンポポ
今春羽化したベニシジミの写真
今春羽化したベニシジミ


 政庁をひととおり見終ったら、少し移動して北側の林に足を踏み入れてみましょう。ここにはコナラを中心とする雑木林と、植林されたスギ・ヒノキ林とがあります。高木のコナラはちょうど花が咲きかけていますが、産毛に覆われた葉はまだ開き切らず、春の日差しは地面にまで降り注いでいます。コナラの根元では、さまざまな低木が光を受けて一足先に葉を広げ始め、林の中は上下二つの層にくっきりと分かれているようです。

 一方、常緑樹であるスギ林の下は薄暗く、コナラ林ほど多様な植物はみられませんが、日当たりの悪い場所でもよく育つアオキがやたらに目に付きます。この時期には、赤い実と褐色の花が同時についており、暗いスギ林に彩りを添えています。よく見ると、実をつけた株とそうでない株とでは花の付き方が違っています。なぜでしょうか。答えは下の写真をご覧ください。

明るいコナラ林の写真
明るいコナラ林
暗いスギ林の写真
暗いスギ林
アオキの雄花の写真
アオキの雄花
アオキの果実と雌花の写真
アオキの果実と雌花

 日当たりのよい林内の遊歩道沿いには、上品な薄紫の花を付けるタチツボスミレがちらほら。林縁に生えるモミジイチゴの枝からは、一重咲きのバラにも似た清楚な純白の花が垂れ下がっています。もうしばらくしたら、ヤマツツジの赤い花も咲き始め、雑木林は一層華やかさを増してくるでしょう。

タチツボスミレの写真
遊歩道沿いに咲くタチツボスミレ
モミジイチゴの写真
木いちごの一種、モミジイチゴ

 耳をすますと、ウグイスやシジュウカラが盛んにさえずる声が聞こえてきます。林の奥で鳴り響く「タタタタタ…」という軽快な音は、キツツキの仲間がくちばしで樹幹を叩いて出す「ドラミング音」。姿はなかなか見えなくても、雑木林が鳥たちにとって大切な生活や繁殖の場になっていることがよく分かります。時おり響いてくる「ピッコロロ…」というきれいな歌声の主は、きっと夏鳥のキビタキです。はるばる東南アジアから渡って来て、多賀城の林で羽根を休めているのでしょうか。

 丘陵の北側には「加瀬沼」という人工のため池があります。冬の間はカモたちで賑わっていた水面は、彼らが去った今では静けさを取り戻しています。南岸の踏み分け道は、丘陵の北斜面にあたるため日当たりがやや悪く、花の数は先ほどより少なくなってきます。期待していたカタクリの花はもうほとんど終わっていましたが、それに代わるように、ショウジョウバカマのピンク色の花が楽しめました。

林から見える加瀬沼の水面の様子
林から見える加瀬沼の水面
ショウジョウバカマの写真
ショウジョウバカマ


 さて、昼休みも後半にさしかかり、そろそろ事務所に戻る時間がやってきました。今日の散策はこれでおしまいです。事務所でしばらく休憩したら、午後の仕事が待っています。そして明日になれば、木々はいっそう葉を広げて、雑木林は今日とは違った装いで迎えてくれるでしょう。調査が終わる6月末まで、夏に向かって千変万化する林のありさまと、そこに暮らす生き物たちを堪能することができそうです。

 今回の「東北便り」は、これまでとは少し趣向を変えて、多賀城の春を演出する生き物たちに注目してみました。肝心の山王遺跡の調査成果は?という声が聞こえてきそうですが、今はまだ調査開始から日が浅くて書きにくいうえ、6月にはほぼ全容が判明する見込みなので、その時までとっておくことにします。今年度も復興調査を中心に、いろんな話題をお伝えしてきますので、どうかよろしくお願いいたします。



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